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観測活動の再開 ⑦

  • 2019/06/03 21:40

 鎌倉カメラ店までは徒歩十分ぐらい、鶴岡八幡宮の表参道である『小町通り』から一本離れたあたりになる訳だが、別段僕達が気になったことはない。どちらかといえば、良くこの道を覚えているな、と池下さんの記憶力を褒め称えたいと思ったぐらいだろうか。上から目線かもしれないけれど。
 鎌倉カメラ店は寂れたたたずまいだった。ほんとうに営業しているのか分からないぐらい寂れていたけれど、そんなことを気にせず池下さんは入っていった。
「あ、ちょっと、池下さん!」
「何だよ?」
「勝手に入って良いんですか?」
「営業中だったら勝手に入っても良いだろ」
「どうして営業中だと分かるんですか?」
「シャッターが全開のときは営業中なんだよ。半開だったり、閉まっているときは営業休止か何らかの理由で営業していないかのいずれか。それを知っているのは地元の人間か、ここに通い詰めている人間ぐらいんだけれどな」
「なんじゃ、騒がしいと思ったら、小僧、お前か」
「池下だって。いい加減覚えろよな、じいさん」
 店の奥から、つるっぱげのおじいさんが出てきた。
 つるっぱげ。
 見事にはげている。
 いや、そういう問題ではないのだが。
「……その様子だと、カメラが壊れたようじゃな?」
「そうなんだよ、じいさん。見て貰うことは出来ねえか?」
「金さえ払えば何だってするぞ。それがわしの仕事じゃからな」
「金は払うよ。当然だろ?」
 そう言って、財布から取り出したのは二万円。
 わお、ブルジョワ。
「……ふん。相変わらず金払いは良いんだがな。その言葉遣いさえ何とかなれば良いものを」
「じいさんだって、客に向かって何て言葉遣いしていると思っているんだ? 少しは鏡を見て反省してみろ、ってんだ」
「五月蠅い。わしはこれで五十年飯を食ってきたんだ。それぐらい問題はなかろうて」
 カメラを店主に手渡す池下さん。
 取り敢えずこれで、ここで行われることはお終い、といったところだろうか。
「ところで」
「うん?」
「未だ撮っているのか、UFO」
「撮っているよ。何なら最近撮れたんだぜ、見るか?」
「ほう。そいつは興味深い」
 最近っていうか、ここ二ヶ月UFOは見られていない気がするのだが。
 それはおいといて。
「UFOの写真が見られるなら、半額でも構わんぞ」
「良いのか、じいさん!」
「店主と呼べ、この若造が!」
 池下さんは何処からか取り出した本から、写真を一枚取り出した。
 というか、そんなところに挟んでいたのか、UFOの写真。
「ほら、これ! 江ノ島で撮れたんだぜ」
「ほう、これはこれは……。流石といったところじゃのう。このままカメラマンにでもなれば良いのだろうに。予定はないのか?」
「その予定はさらさらないね。俺は公務員になって給料を固定給で貰うのが一番なのさ」
 意外と夢がないんだな。
 そんなことを思いながら、僕はカメラ店の店内を見てみることにした。
 古いカメラからデジタルカメラまで、たくさんのカメラを取りそろえているように見え、さらにそのカメラには埃一つ存在しない。どうやら掃除は行き届いているように見えるし、カメラに対する愛情は厚いのかもしれない。
 それはそれとして。
「じゃ、カメラも預けたし、鎌倉観光に行くとしますか。……じいさん、どれくらいでカメラ修理出来る?」
「二時間もあれば直せるだろうて。だからその間に鎌倉でも散策してくると良い」
 二時間か。
 それぐらい時間があるなら、確かに散策ぐらい出来るかもしれない。
 そう思って、僕達は鎌倉の街に繰り出すのだった。

 

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