観測活動の再開 ②
- 2019/06/01 06:21
昔、主人公が女子校に潜入するために女子に変装したら似合いすぎた、なんていうケースがあったらしいけれど、正直そこまでにはなりたくない。はっきり言って、そこまでプライドを失いたくない。
「……えーと、取り敢えず、このクラスとしては『メイド喫茶』をやるということで決定で良いですか」
言ったのはクラス委員の藤岡だった。藤岡は眼鏡をかけた清楚な雰囲気を漂わせている女子だった。藤岡は、自分のクラスの出し物がメイド喫茶に決まったら、メイド服を着ることになる、ということを理解しているのだろうか。分かっているのだろうけれど、否定意見がないから仕方なくそれに同調しているだけ、なのかもしれない。
「反対意見、反対意見はありませんね? だったら、『メイド喫茶』で決定になるんですけれど。ほんとうに良いんですね?」
よっぽど嫌なんだろうか。
いや、普通に考えてみればメイド服を好き好んで着ることなんてないか。
「……それじゃ、『メイド喫茶』に決まりました……」
ぱちぱち、と寂しい拍手が起こる。
何というか、切ない気分になるけれど、致し方ないといえばそれまでなのだろう。
僕もメイド服は着たくないし、普通に考えて女子がメイド服を着るのだろうな。
……ところで、大量のメイド服を何処から仕入れてくるつもりなのだろう?
「続いて、メイド服を借りる場所ですけれど、」
あ、やっぱり聞くんだ。
「……例年通り、『豊橋制服店』から借りるということで宜しいですね?」
例年通り?
ということは、毎年何処かのクラスがメイド喫茶を所望しているってことか。
陰謀か? 何かの陰謀なのか?
僕はそんなことを思ったけれど、それよりもその制服店にメイド服が大量にあることが問題だな、と思うのだった。
※
「クラスの出し物? ああ、うちのクラスは例年通りお化け屋敷だよ。食べ物を出す場合は、検便が面倒だからね」
検便?
「知らないのか? 食べ物を出す場合は、例えば密封されているもの以外を提供する場合は、保健所に検便を提出する必要があるんだよ。……それが嫌だから、出来合いの食べ物ばかりを提供するようになってしまったのだけれどね。でもまあ、致し方ないことだろう? 普通に考えて、検便をやろうなんて思う方がおかしな話だ。……ところで、君達のクラスは? まさかメイド喫茶をやろうなんて言い出さないだろうね」
「……ご明察です」
肩を竦めて、僕はそう答えた。