ラブレター ⑩
- 2019/06/01 00:00
エピローグ。
というよりただの後日談。
「結局、ラブレターってどうなったんだ?」
僕は単純な疑問を投げかけた。
僕は(ある種)明白な疑問を投げかけた。
僕は簡単な疑問を投げかけた。
それは答えが分かっている、単純でシンプルな正解だったというのに。
分かりきっていて、それを訊ねること自体が愚問だと言える話だったというのに。
でも、僕は質問した。
でも、僕は詰問した。
――ラブレターはどうなったのか、と。
その質問について、彼女はこう言い放った。
「…………ラブレターって、何?」
ああ、そういうことか。
そもそもの問題として。
そもそもの課題として。
そもそもの疑問として。
彼女がラブレターのことを知らなかった、ということなのだ。
仮に大量のラブレターを手に入れたとしても、その意味を理解していなければまったく意味がないということだ。
良く考えれば単純なことだったのだ。
良く考えれば簡単なことだったのだ。
それがそうであるならば、分かりきった話であるとするならば、僕は何も否定しない。僕は何も肯定しない。それが分かりきっている話であるんだ。だったら、僕は何も言わないだろう。というか、転校生に皆期待しすぎななのだ。転校生がどれだけパーフェクトな人間だと思っているのだろうか。転校生がどれ程完璧な存在だと思っているのだろうか。転校生のことを、買いかぶりすぎじゃないか、と言いたいぐらいだが、それはそれとして。言わずもがな、というところだろう。それが分かっているんだ。というか、分かっているのは同じ部活動に加入している僕達ぐらいしか知らないことも多いのだろう。
「……ラブレターのことを知らないなら、一から教えて貰え、あずさに」
「なんで私に?」
「いや、だって、そういうデリケートな話題は同じ性別の人間同士で言い合った方が良いだろう?」
「そういうものなのかねえ……」
「そういうものだろう?」
それ以上は言うのは野暮ってものさ。
僕はそんなことを考えながら、『屍者の帝国』を読み進めるのだった。
※
もう一つ。後日談があるとするならば。
あずさが買ってきておいたお土産があまりにも消化されていなかった、ということだろうか。仕方がないと言えばそれまでなのだけれど、気づけば量が減ってきている。いったい全体誰が食べているんだろう……などと思っていたら。
「……あ」
ある日、あずさが自らの鞄にお土産を仕舞っているのを目撃してしまった。
……別にそれをしなくても良いだろうに。僕はそんなことを思いながら、静かに部屋の扉を閉じるのだった。