ラブレター ④
- 2019/05/29 21:32
待ち合わせは、七里ヶ浜駅だった。
「お待たせ」
白いワンピースに身を包んだあずさと、青いシャツとオレンジのプリーツスカートに身を包んだアリスを見て、僕は心の中で少しだけ朗らかな気持ちになってしまっていた。
だって普通に考えればデートみたいなもんだし。
そんな感じだから、今日の僕は高揚感に包まれていた。
いや、高揚感だらけになっていた、というのが正しいのかもしれない。
いずれにせよ、今回はあずさにエスコートしてもらうことになる。
何せ、ここの地理に詳しいのは、この中では、他でもないあずさだけなのだから。
僕もアリスも、この辺りの地理には詳しくない。江ノ電なんて乗るのは二回目だ。
だからSuicaのチャージ残額が若干気になっていたけれど、そんなことは特に問題なく、藤沢まで乗ることが出来た。
藤沢からは東海道線に乗り換えて辻堂駅で下車。すると目の前に広がっているのが――。
「ほら、ここ! テラスモール湘南!」
「こんなところにこんな立派なショッピングモールがあるなんて……知らなかったよ」
「そしてこの中に映画館があるんだよ!」
映画館に入ると、ポップコーン売り場にショップ、チケット売り場が広がっている。
チケット売り場で早速チケットを購入すると、時間はあと一時間あることが分かった。
仕方がないので、ショップを見て回ることにした。
「映画を見るなら、先ずはやっぱりパンフレットを買わないと!」
「そうなのか?」
「そうなんですー!」
だったら買うか。パンフレットの値段を見ると千円。まあ、子供向け映画だしそんなもんか。
「すいません、パンフレット三つ」
「三千円になります」
「えっ、買ってくれるの? いっくんかっくいー!」
「いや、後で払えよ……」
「えっ?」
「アリスもだぞ」
「………………えっ?」
アリスは欲しくなさそうだけれど、あずさが「パンフレットは買っとけ!」って言うから、取り敢えずアリスの分も購入しておくことにする。
「すいません。三人なんで一人一つに分けて貰えますか」
「良いですよー」
店員さんは愛想良く、僕達に一つづつパンフレットの入ったビニール袋を手渡してくれた。
さて、それをしたところでまだ時間はあと五十分ある。
「ちょっと、本屋さんにでも行ってみる?」
そいつは妙案だ。僕はそう思って、それに大きく頷くのだった。
※
テラスモール湘南にある大きな本屋に僕達はやって来た。
「今、十一時半だから……、十二時にここで集合ね! 後は各自行動を取ること! それじゃ、後はよろしく!」
そう言って。
あずさはそそくさと何処かに消えていってしまった。何というかすばしっこい奴だ。そんなことを思っていると、アリスがじっと僕の顔を見つめている。
「……アリス? どうかしたのか?」
「…………迷子になりたくないから、一緒についていく」
「……マジかよ」
そんなこと言われても困る、と言いたかったけれど、同性であるあずさはさっさと何処かに消えて言ってしまった。
となると後は僕だけ。
仕方ない。あずさのことは諦めて、アリスと一緒に行動を共にすることにしよう。
そう思って僕はアリスの手を取った。
「…………え?」
「迷子になったら、困るんだろ」
アリスはこくり、と頷いた。
僕は少しだけ顔を赤らめながら、本屋の中に入っていくのだった。
※
本屋で見ている本と言えば、珍しい本ばかりだ。
どんな本を読んでいるのだろうか、と思って見ていたら、『ヒト夜の永い夢』というSF小説だった。分厚い本だった。見ると価格が千円もした。千円もする文庫本があるのか……少し溜息を吐きながら、アリスは財布とにらめっこしている。
「買わないのか?」
「…………ちょっと高いかな」
「……分かった。じゃあ、僕が買ってやる」
「…………え?」
アリスはそんなことを言われると思ってもみなかったのだろう。
そんなことを思いながら、僕は元から購入する予定だったゲームのコミカライズ本と一緒にカウンターへ持って行った。
「千七百円になります」
ちょいと予算オーバーしたけれど、これくらいはどうだって良いだろう。
「すいません、一冊別に袋分けて貰えますか?」
「良いですよ」
店員さんは何処でも愛想が良い。
僕はそう思いながら、二つの袋を受け取って、そのうちの一つをアリスに手渡すのだった。
「…………ありがとう」
「大事に読めよ」
僕はそう言った。アリスはそれを聞いてにこやかな笑みを浮かべるのだった。