ラブレター ③
- 2019/05/29 20:58
宇宙研究部の部活動をしている最中でも、他の部活動からの勧誘はあった。
あ、僕の話ではなく、アリスの話になる訳だけれど。僕はどうだっていいのかよ、畜生。
「ねえねえ、高畑さん。こんな部活動じゃなくて、弓道部とかどうかしら?」
「…………嫌だ」
「弓道部より書道部も良いと思うわよ? ほら、高畑さん、文字上手そうだし!」
「…………嫌だ」
「書道部より茶道部よね? お茶の入れ方上手そうだし!」
「…………嫌だ」
こう毎日やって来る部活動の勧誘を見た限り、この中学校には様々な部活動があるのだな、と思い知らされる。
しかしながら、アリスはどれも目にくれず、この宇宙研究部での活動を全うした。
「どうしてこの部活動が良いんだ? 何かピンと来るものがあったとか?」
「…………そうかもしれない」
そうかもしれない、って。
ピンと来るものがこの部活動にあったのなら、それはそれで何よりなんだが。
というか、僕自身もなぜこの部活動に入ったのか未だに良く分からない点があるのだけれど。
「まあまあ、良いじゃないの。アリスがこの部活動が良いって決めているんだったら。彼女の本心に任せてあげた方が良いんじゃないの?」
「それもそうなんだけれどね」
でもそれが正しいのかどうか分からない。
答えも魑魅魍魎も何のその。
結局のところはただの役不足。
いいや、それが間違っているのか正しいのかも分からないけれど。
いずれにせよ、僕の価値観では、アリスの価値観を推し量ることは出来ない。
アリスの価値観を、僕の価値観で推し量ろうなど、無駄な話だったのだ。
出来る話ではなかったのだ。
だとすれば、それが正しいかどうかも判別することが出来ないのであって。
「…………私は、ここが楽しいから」
「ほら! アリスもそんなことを言っているしさ!」
「……だったら良いんだけれど」
僕はそのままにしておいた。
僕は言わないままにしておいた。
僕は片付けないことにしておいた。
それが正しいと思っていたから。
それが間違っていないと思っていたから。
それが有り得ないはずないと思っていたから。
※
「そういえば、いっくん。映画に付き合って欲しいんだけれど」
「は? 映画って何だよ」
「これこれ!」
そう言ってあずさは映画のポスターを僕に見せる。
日本のゲームがハリウッドで映画化した作品の第二弾――だっただろうか。その作品を僕はTVのCM程度でしか見たことがなかったけれど。
「で? この映画がどうした訳?」
「いっくん、全然興味ないんだね? 私が一番見たい映画の一つだよ! 昔からこのゲームが好きだったんだけれどね、このたびハリウッドで実写映画化が決まったのが数年前。それが大ヒットして第二作が今年公開! という感じなんだよ。全くもって素晴らしいことだと思わない?」
「うん、素晴らしいことだとは思うんだけれどさ。それと僕とどんな関係性が?」
「暇ないっくんを連れ回してあげようという私の思惑なんだけれど、理解してくれないかな?」
「暇、って……。いや、確かにこの近辺の地理には詳しくないから暇この上ないんだけれどさ」
「だったら、一緒に行こうよ、映画館!」
「おーおー、デートかい、二人とも」
今日は部長が来ていた。
だから部長がそんなことを言っていた。言っていたからって何だ、って話なんだけれど。
「…………私も行きたい」
「え?」
「…………私もその映画、見に行きたい」
目がキラキラ輝いているように見える。
何というか、それを見て、嫌だ、とは流石に言い切れない。
……結局、その後の話し合いで、後日土曜日に三人で映画館に見に行くということになるのだった。