ラブレター ②
- 2019/05/29 19:12
宇宙研究部の部活動は、特にやることもなかった。
というのも、部長が生徒会選挙に立候補することを決めたからだ。
だから、それ以外の僕達は置いてけぼり。正確に言えば、やることがないってこと。
「なあなあ、アリス」
だから僕はアリスに質問してみた。
「…………何?」
「アリスって、ラブレターとか届いているの?」
いかにも不躾な質問であることは理解していた。
「ラブレター?」
「……まさか、意味を理解していないなんてことは言わないだろうな?」
「いや、理解していないことはないと思うよ。ってか、それを聞く普通?」
隣に居たあずさが僕に言ってきた。
そりゃ、そうだろうと思う。
けれど、気になってしまうのが性だ。
だとしたら、聞いてみるしかないって話になる訳だけれど、それが駄目なら、まあ、致し方ないことなのかもしれない。
「……で、どうなんだ? 結局、ラブレターは貰っているのか?」
「…………未だ、封を開けていない手紙がいくつか」
あるんかい。
「でもまあ、大変だよな。モテるってことは。僕はあんまりモテたことがないからさっぱり分からないんだけれどさ……」
「…………モテるってどういうこと?」
「女性だったら、男性に好かれやすいってことだよ」
僕はアリスの質問に答える。
「…………だったら、私は好かれやすいのかもしれない」
「そうなの?」
「…………分からないけれど」
「分からないんだ」
何だか禅問答をしている気分だ。
禅問答をしたことがないけれど。
「ところで」
「何?」
「ラブレターって何?」
やっぱり、意味を理解していないんじゃないか。
僕はそんなことを思いながら、ラブレターの意味を教えてあげるのであった。
※
部活動が終わって、僕はアリスと一緒に歩いていた。
あずさは帰る準備をしていて、少し遅れるとのことだったので、僕達が先行して歩いていく形である。
「…………一緒に歩いて、大丈夫?」
アリスは僕に問いかける。
「どうして?」
アリスの言葉に、僕は何の意味も持たずに質問を返した。
「…………だって、ラブレターがたくさん届いているのだとしたら、私を好いてくれている人がたくさん居るってこと。ということは、私と貴方が歩いているこの状況を目撃されたら、刺されるんじゃないかって」
刺されるって。
流石にそこまで過激派な人間は居ないと思うけれど。……いや、居ないよね?
「…………そんなことより」
「そんなことより?」
「…………あずささん、来ないね」
「ああ、あずさか。未だ来ないんじゃない? 何せ片付けが残っているって言っていたし。片付けが終わらない限り帰ることは出来ないんじゃないかな」
「…………それって大変だね」
「そうだね。でも、あの部屋を使わせて貰っている以上、仕方のないことなんじゃないかな。図書室を使う人間が少なくない訳でもないし」
「…………図書室がなくなっちゃえば良いんじゃない?」
何その発想、サイコなんですけれど!
やっぱりアリスは宇宙人なんじゃないだろうか。地球人には有り得ないような発想が続々と出てくる辺り、普通の人間とは違う何かが感じられる気がする。
けれど、やっぱり。
アリスを宇宙人であると信じたくない自分が居る。
いや、そもそも宇宙人は居ないと思っている。UFOも居ないと思っている。
けれど、UFOは見てしまった。その次の日に、アリスがやって来てしまった。
アリスが宇宙人だとするならば、僕達は何かを裁かれてしまうのだろうか。
アリスが宇宙人であるならば、僕達は裁かれるべき罪が存在するのだろうか。
答えは分からない。答えは見えてこない。答えは暗中模索するしかない。
けれど、僕達は。
前に突き進むしかない。
それが宇宙研究部としての役目なのだから。
それが宇宙研究部としての存在意義なのだから。
それが宇宙研究部としての意味なのだから。