ラブレター ①
- 2019/05/29 18:21
六月半ばにアリスが転校してきて、その一日であっという間にクラス中に、いや学年中に広まった。という訳で、昼休みにもなれば多くの人間がクラスにやって来ていた訳だ。畜生め、僕がやって来た時は誰一人としてやって来なかったじゃないか!
「それはきっと、アリスが可愛いからじゃないかな」
言ったのはクラスメイトの高岳だった。高岳は気分屋でクラスのムードメーカー的立ち位置に立っていた。席は僕の前で、話しかけるのも容易い。だからかもしれないけれど、あずさの次に僕は仲良くなることに成功したのだった。
「アリスが可愛いだって? ……確かにそうかもしれないな」
「これからはこのクラスも忙しなくなるんじゃないかな。何せ、クラス一のマドンナだった神沢に変わって新しいマドンナが生まれたんだからさ。まあ、神沢が嫉妬しないかどうかが問題だけれど」
「女の嫉妬は怖いからな」
「違いねえ」
僕と高岳はそんな会話をしながら、授業間の休みを満喫していた。
「で? お前はどっち派な訳?」
「どっち派ってどういうことだよ?」
「言わせるなよ。高畑派か、神沢派か、だよ。俺は正統派美少女の神沢に一票投じたいところだねえ。しかしながら、高畑の帰国子女感溢れる感じもたまらねえ。清楚な見た目をしているのに、だ。あれがたまらねえと思う男子生徒も少なくないはずだ。で、お前に質問って訳だよ。お前は宇宙研究部に所属しているんだよな?」
「うん、そうだけれど?」
「羨ましいよなあ、宇宙研究部には、あの伏見も居るんだろう?」
ちなみに今あずさはトイレで居ない。
そのタイミングを狙っての言葉なのだけれど、何がそんなに羨ましいのだろうか?
「羨ましいってどういう意味さ?」
「だって、部活動に同学年の女子が二人居るんだぞ? それだけでハッピーじゃないか。競争率が低いって奴? もっといえばハーレム状態とでも言えば良いのかな?」
「何がハーレムですって?」
言葉を聞いて振り返ると、あずさがガイナ立ちしてその場に立ち尽くしていた。
「えっ? い、いや、何でもないよ。あの部活動に三人も新入部員が入るなんて凄いな、なんてことを思ったぐらいだ」
「三人って私も入れた数なのかしら? ……まあ、良いわ。いっくん、人の話を聞くのも良いけれど、たまには流し聞きするのも悪くないことだと思うよ」
そう言って彼女は席に座る。
「……まあ、話を戻すけれどよ、お前、どっち派よ?」
「どっち派と言われても、アリスは未だ来て数日しか経過していない訳だし……」
「へえ、アリスって呼ぶ仲になったの?」
「ち、違う! ただ単純に同じ部活動の女子をそう呼んでいるだけだ! あずさだって、あずさって呼んでいるし!」
「それなら分かるけれど……。まあ、いいや。お前は保留ってこったな。それにしてもあんだけ人間が集まるんじゃ、あの量も大変なんだろうなあ」
「あの量、って?」
「馬鹿。女子が男子に贈るものったら一個か二個しかないだろ、ラブレターだよ、ラブレター」
「ラブレター……ああ、そういうこと」
「まるで無関心だなあ、お前って。何というか、女子との恋愛に興味がないタイプ?」
「僕をそっちの方向に持って行くのを止めてくれ。僕はちゃんと女子が好きだよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうだよ。嘘は吐かない」
「だったら良いけれど」
始業を報せる鐘が鳴って、高岳は席を元に戻した。
三時間目の授業、理科が始まる。