エントリー

八月三十一日⑫

  • 2019/05/29 15:34

 保健室。
 高畑と伏見、そして保険教諭の今池文恵が向き合って座っていた。
「……貴方達の行動、見過ごせないものばかりであるということはご理解いただけたかしら?」
「はい。アリスの殺人、そして私の『タイムリーパー』使用……。決して許されるものではありません」
「貴方達は大事な駒です。駒は駒らしく活動して貰わなくてはなりません。分かりますね?」
「分かっています」
「アリス。貴方は?」
「…………分かっている」
「分かっているなら、派手な行動は避けること。それは『隊』としての絶対命令だったはずよ。分かっているかしら?」
「分かっています。今回の行動は浅い考えだったことを認めます。ほんとうに、申し訳ありませんでした」
「まったく……。もし、彼に何らかの影響が認められた場合、貴方は対処出来るの?」
「保健委員なので、何の問題もなく保健室に連れて行くことは可能です」
「可能でしょうね。けれど、問題はそこから。……民間で使える薬物にも限界がある。『タイムリーパー』の副作用を緩和してくれる薬物なんてジェネリックでも出てきていない代物なのよ。まあ、何かあったときのために、と念のため用意はしていたけれど」
「分かっていたのですか。私達が、彼に何かするということは」
「当然でしょう。そのように仕組んでいたのだから。彼は特異点。それ以上でもそれ以下でもない。とどのつまりが、彼の存在意義こそが貴方達が戦う意思を捨てないためのものだということ」
「……全て手のひらの上に居た、ということですね、私達は」
「その通り。それは理解して貰えたかしら?」
 こくり、と頷く高畑と伏見。
「理解して貰えて何より。九月からはより一層忙しくなるからね。貴方達にも、戦闘態勢を取って貰う必要が出てくる」
「学校を休め、ということですか?」
「そもそも学校は貴方達にとっての憩いの場というだけであって、それ以上でもそれ以下でもない空間であるということ。そして、その憩いの場はいつでもなくすことが出来るということ。それぐらいは貴方達も分かっていたはずよ。貴方達だって、現実を見極めることぐらいは出来たはず」
「それは……」
 そうかもしれない。
 そうかもしれないが。
 彼女達を傷つける空間がこれまで以上に広がるということについて、彼女達は、考えたくなかった。出来ることなら、永遠にこの平穏な空間で過ごしていきたかった、と思っていた。
「薬の投与量もこれから増やしていくつもりです。よって、貴方達には何らかの副作用が出るようになるかもしれませんが、そのときは保健室に駆け込むように。一応、先生にも根回しは済ませてあります。だから、何かあったら先生を頼りなさい」
「……分かりました」
「…………分かりました」
 そうして、会話は終了した。
 お互いにとって、忘れられない夏の終わりが――もうすぐやって来る。

 

ページ移動

ユーティリティ

2025年12月

- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

カテゴリー

  • カテゴリーが登録されていません。

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ページ

  • ページが登録されていません。

ユーザー

新着エントリー

過去ログ

Feed