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ブラックボックス ②

  • 2019/06/16 15:59

「空飛ぶ……円盤?」
「UFOを自衛隊の兵器であると考えたところまでは素晴らしかった。だが、公表するのは不味かったね。自衛隊に狙われる可能性があるということを考慮していなかったのかな?」
「それは部長が公表したことで、僕は関係ないはずじゃ……」
「いいや、君にも関係あることだよ。……一番早く君が気づいた。あずさとアリスが『ブラックボックス』の搭乗員であるということに。君が『部長』と呼ぶその存在は、未だ彼女達が『ブラックボックス』の搭乗員であるということは知らなかったはずだ。全ては君が悪い。気味が悪い程にね……」
「『ブラックボックス』とはいったい何なんですか?」
「君が言った通り、空飛ぶ円盤だ。この瑞浪基地第三部隊は宇宙部隊として位置づけられている。君は宇宙部隊の意味を知っているかね?」
 えーと、確か。
 宇宙ゴミや他国の衛星を監視する役割を担っている、とかだったような……?
「何でしょうか、分かりません」
 でもここは無知を貫いていった方が何かと都合が良さそうだ。
「宇宙ゴミや衛星を監視する役割を担う、というのが表向きだ。……だが、裏は違う。起きるであろう戦争を未然に防ぐのが目的だ」
「それって、憲法に違反しないんですか?」
「違反……。しているかもしれないな。だが、世界の平和を守るためには仕方ないことだ」
 ラブリーチャーミーな敵役が言ってきそうな台詞だな、それ。
「世界の平和、って……。まるで今から戦争が起きそうな言い方ですね、それって」
「起きるのだよ、このままだと。それを阻止しなくてはならないのが我々の仕事だ」
「阻止するのが? そのために彼女達を使うって言うんですか。子供ですよ、彼女達は」
「それぐらい分かっているとも。だが、仕方がないことなのだ。我々が、この国を守っていくためには……」
「そのためなら、何をしても良いと……言うんですか!?」
「なら君が代わりになるかね? 『ブラックボックス』の搭乗員に」
 搭乗員。
 そう言われて、僕は思わず息を呑んでしまった。
 僕が、『ブラックボックス』の搭乗員になったところで、それが解決出来るのだろうか?
 僕が、『ブラックボックス』の搭乗員になったところで、彼女達は救われるのだろうか?
 答えは見えてこない。全て、暗中模索の出来事だ。
「……それは、」
 出来ない、とは言えなかった。
 やれない、とは言えなかった。
 けれど――彼女達のことを思うと、否定することも出来なかった。
「彼女達に、あのような残酷な運命を背負わせてしまったのは、悪いと思っている。それだけは言っておこう。……だが、彼女達のような存在が居てこそ、君達一般市民に平穏が訪れるのだということも分かって貰いたい」
「……そんな、そんなことって」
「否定するかね?」
 否定したかった。
 否定したかったよ、出来ることなら。
 けれど――僕は否定出来なかった。
 それは、彼女が生きているから。
 それは、彼女がそうありたいと願ったから。
 それは、僕がそうなりたくないと思ったから。
「話は未だ続く。……君には全てを聞かせてあげるべきだと、部下から言われたものでね」
 スライドは次に進む。
 そこに映し出されたのは、世界地図だった。
 日本を中心とした、世界地図だった。

 

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