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逃避行のはじまり ⑨

  • 2019/06/12 21:05

 監視されている可能性を考慮するならば、僕はそれに肯定せねばならないだろう。
 何せ池下さんに言われたのだ。――逃げるなら今のうちだ、と。そして僕はそれに従って、逃げている。それが意味するのは、彼の意見に同意したということ。彼の意見に反対しなかったということ。彼の意見に賛同したということ。それが何を意味しているのかは――分からない程、僕も馬鹿じゃなかった。
「……見た感じ、監視されている様子はないけれど」
「いっくん? どうかした?」
「いいや、何でもないよ。……ところで、さっきからごそごそしているのは何かな?」
「いっくんのおばあちゃんに挨拶するんだったら何か食べ物でも用意しておけば良かったな、って思っているんだよ。生憎チュッパチャプスしかないんだよね。新しもの好きだったりしない?」
「……うちのおばあちゃんはそんなこと気にしないから安心して良いよ」
「ええっ? ほんとうに?」
「ほんとうだよ。嘘は吐かない」
 ……まあ、それ以上に吐いている嘘がいくつかあるのだけれど、それは言わないでおこう。
「だったら問題ないかな。アリスも何か捜し物をしているようだけれど、アリスも同じ理由?」
「……食べ物を渡すのは常識、と習ったから」
「いやいや! うちのおばあちゃん、そんなに世間体気にしていないから安心して良いよ? 最悪小山駅のコンビニで買うキャラメルみたいなものだって充分だし」
「そうなの? ……だったら良いけれど」
 何とか二人とも納得してくれたらしい。
『次は横浜で御座います。お出口は――』
「いや! でもやっぱり買っておいた方が良いよ!」
 座っていたあずさがいきなり立ち上がると、そう高々に宣言した。
 周りの目があるんだから、あんまり目立った行動をされると困るんだけれどな……。
「ええっ? 良いよ、別に。気にしないで」
「私が気にするの! という訳で、次の横浜で降りるよ! 良いもの思いついたから! 大丈夫、駅から離れるつもりはないし!」
「え、ええっ!?」
 そういう訳で。
 僕達三人は横浜駅で途中下車をすることに相成ったのであった。

 

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