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逃避行のはじまり ⑥

  • 2019/06/12 17:06

「……ちょうど良いのか。分からないな、お前の生き方って奴が」
「そういうもんだぜ。人間の生き方は他の人間には分からない。それが人間の良いところだと思うぜ、俺は」
「そういうもんかなあ……」
 僕は再びブランコを漕ぎ出していく。
 そこに答えはないのかもしれない。
 そこに道標はないのかもしれない。
 そこには何もないのかもしれない。
 けれど、僕は前に突き進むことしか出来ない。
 退路は既に断たれている。だったら、前に進むしかないのだ。
「話を戻すけれどさ」
 芽衣子がブランコに座りだして、話を続ける。
「いっくんはやっぱり、『助けたい』という思いが強い訳?」
「……そりゃそうだろ。やっぱり助けたいという思いが強いに決まっているだろ。だけれど、それはやっぱり難しいところがある……というのも確かに間違っているのかもしれない」
「間違っている、と?」
「ああ、そうだろうね」
「いっくんは、どう考えている訳? ……この先、どうすれば良いと思っているんだ?」
「僕はやっぱり、一緒に居ることが出来ればそれで良いと思っているんだ」
「そこに覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「そう、覚悟だよ。俺は殺人鬼になるときは殺人鬼になるべく、覚悟を抱いた。だが、いっくん、お前はどうだ? お前は、一緒に居ることが出来れば良い……でもその覚悟を抱いているのか、と言っているんだ」
「覚悟……」
 ある、と言えば嘘になるのかもしれない。
 でも、ない、という訳でもない。

 ――僕はどう答えれば良い?

「覚悟……。僕は、それを持っていないのかもしれない」
「うん」
「けれど、」
「けれど?」
「一緒に居たいという気持ちは……誰よりも強いと思う」
「思いは、誰よりも強い……ねえ。いっくんらしいといえば、いっくんらしいのかな?」
 芽衣子は話を続ける。
「俺はそんな思いを抱いた人間に出会ったことがないから分からないけれど、一度だけ、家族に会いたいと死に目に言った人間は居るよ」
「その人は……結局殺したのか?」
「ああ、結局殺したよ。だってそうじゃないと、殺人鬼としてのメンツが保てないだろ?」
「…………そうか、殺したのか」
「どうした? 情でも湧いたか?」
「別にそんなつもりはないけれどさ……。その人は可哀想だな、と思ったんだよ」
「どうして、だ? 殺人鬼に殺されるぐらい運が悪くて、どうしようもない奴だったんだぜ?」
「そうかもしれない。そうだったかもしれない。けれど、やっぱり、可哀想だな、って思うんだよ。死に目に家族に会えなかったのは、可哀想だな、って」
「じゃあさ、一言だけ言っておくよ」
 芽衣子はブランコから降りて、公園の外に出ようとする。
 芽衣子はそのまま話を続けた。
「……家族と『守りたい人』。どちらが大事か少しは考えてみた方が良いよ? どちらも居るというのなら、猶更、ね」
 そう言って。
 芽衣子は公園を出て行った。
 誰も居ない相浜公園は――一気に沈黙と化していくのだった。

 

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