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逃避行のはじまり ③

  • 2019/06/12 00:17

「言っただろう。僕はただ彼女達を救いたい。ただそれだけなんだ。そのためなら……どんな罪を背負っても構わない」
「へえ? それぐらいに、良い人間に出会ったんだな。良かったじゃないか、いっくん」
「良かったと言われても……。どうなんだろう、僕はただ逃げたい理由を見つけたいだけなのかもしれない」
「逃げたい理由?」
「うん。……考えを改めたくはないんだ。だが、僕としては、彼女達を助けたいと思っているだけなんだ。それだけ……なんだよ」
「だったらさ、いっくん」
 芽衣子はブランコから降りて、話を続ける。
「いっくんがやりたいことをやれば良いと思うぜ? 俺は」
「僕が……やりたいこと?」
「そうだぜ。だって一度きりの人生だろう? 人生は楽しくなくっちゃいけねーんだよ。。俺みたいに殺人鬼の人生を歩んでも良いかもしれねーけれどな!」
 それはどうかと思うけれど。
 あっはっは、と笑う芽衣子を見て僕は深々と溜息を吐く。
「……分かったよ、芽衣子。僕、やってみるよ」
「おう、やってみろよ、いっくん。そして俺に見せてくれよ、可能性を」
「うん。そうしてみるよ。ありがとう、芽衣子」
 そう言って。
 僕はブランコを降りた。
「もう話し合いはお終いにするつもりかい?」
「未だ話す内容でもある?」
「……最近何していたか、教えてやろうか? 私が」
 それは。
 ちょっと気になる話題だった。
 僕はブランコに再び腰掛け、話を聞く態勢を取る。
「実は、依頼されてさ。茨城まで遠征に行っていたんだよ」
「依頼? 殺人鬼にも依頼って来るのか?」
「来るぜ。来る来る。フリーランスみたいなもんだからよ。俺は人を殺すことしか取り柄がないからな。だったら人を殺すことで生計を立てていくしかない。それぐらい分かりきった話だろう?」
「そりゃそうかもしれないけれど……そうか、茨城か……」
「茨城に住む、豪商を殺してこいと言われてさ。どうやって殺すか悩んだけれど、毒殺してやったんだ。罪は奥さんに全て擦り付けて、な」
「それってずるいなあ……」
「そうか? ずるいかなあ。俺にとってみれば至極真面目なやり方だと思うんだけれど」
「それにしても、茨城、か……」
「何かあった? 茨城に知り合いでも居るのか? それとも殺して欲しい相手とか?」
 いや、殺して欲しい相手は居ないけれど。
 茨城には祖母が住んでいる。祖母を頼れば或いは……。
「……いっくん、黙りこくってないで少しは俺にも情報共有してくれないかな。少しは話してくれないとこっちだって困るんだけれどさ」
「……ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていただけだよ。芽衣子には関係ない」
「俺には関係ない、ねえ……」
 芽衣子が少しそっぽを向いたような気がした。
 そして、僕は話を始める。
「少し、頼れそうな人を見つけたんだ。だから、彼女達の居場所はそこに決めた。そこにしばらく身を潜めようと思う」
「出来るのか? それが。相手は国家権力なんだろ?」
「それでも……彼女達を助けられるなら、少しでも助けることが出来るなら、僕はやってのけるさ」
「へえ、いっくん、男前になったね」
 芽衣子は歩き出す。
 僕はただ――それを見つめることだけしか出来なかった。
「いっくんは、優しいよな」
 そうして、しばらく考えた芽衣子が発言したことは――僕にとって想像が出来なかった。
 

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