逃避行のはじまり ②
- 2019/06/12 00:03
「実はさ……、友達が自衛隊に連れ去られそうになっているんだよ」
「へえ? 自衛隊ねえ。そいつは難儀な話だ」
「それで、彼女達は戦争の道具にされてしまいそうなんだ」
「戦争の道具に? たかだか十二、三歳の人間が?」
それは、まるっとそのまま君に返してやりたい気分だ。
「そうなんだよ。たかだか十二、三歳の少女が、だ。そんなこと信じられると思うか? 僕は未だに信じられない」
「でも、それが真実だということは理解している、ってことだろ?」
「それは……」
頷くことしか出来ない。
答えることしか出来ない。
否定することは出来ない。
「……それで? いっくんはどうしたいつもりな訳?」
「僕は……彼女達を助けたいと思っている。戦争の道具になんかさせたくない。だから、僕は彼女達を逃がすつもりで考えている」
「逃がす? いったい何処に? 相手は国家権力だぜ?」
「それは……」
そうなのだ。
相手はただの一組織じゃない。自衛隊――ひいては国家権力を相手にするということ。その意味が理解できていない訳ではない。僕にとって、それがどういう方向に近づいていくかなんてことぐらい分かっている。
国が国なら、国家反逆罪で逮捕されているレベルだ。
つくづく、ここが日本で良かった、と思える。
「まあ、いっくん。少し視点を変えて考えてみようぜ」
「視点を変える?」
「とどのつまりが、相手は国家権力。そして助けたいのは少女『達』」
「そうだ」
「だったら答えは簡単だ。好きなことをやっちまえば良い」
「好きなことを……やる?」
「簡単なことだぜ。難しい話なんて一言も話しちゃいねえ。要するに、俺みたいな人間が言える立場じゃないのかもしれないけれど、逃げちまえば良いんだよ。楽になっちまえよ、いっくん」
「御園芽衣子……」
「いつまでフルネームで呼ぶつもりだい? いっくん。たまには俺のことを『芽衣子』とでも呼んでみたらどうだ? それとも『御園さん』か? それとも『みーちゃん』とでも呼びたいか?」
「それ以上は止せ、芽衣子」
「……やーっと、私のことを芽衣子と呼んでくれたな、いっくん。嬉しいぜ。私はそういう柔軟な考えの持ち主が大好きだぜ」
そんなことを言われてもな。
僕は複数人の女性と付き合うつもりなんて毛頭ない訳なんだけれど。
「……いっくん、まさか今の言葉、本気で捉えているかい? だとしたら、少しは考え直した方が良い、その愚直な性格をだね」
愚直?
そうだろうか。
僕がそんな性格に見えるだろうか。
僕は――分からない。分からなかった。
「とにかく、いっくんの考えが俺には未だ分からないね。どういう風にするつもりだい? いっくんとしての考えを教えて欲しいんだけれど」