クスノキ祭 ㉝
- 2019/06/11 18:21
クイズ大会の決勝はあっという間に幕を下ろした。
残念ながら栄・八事ペアは敗れてしまったけれど――それでも楽しいクイズ大会だったのは変わりない。
クイズ大会が終わった後は、部長達のクラスの出し物であるお化け屋敷に向かった。かなりクオリティが高く、正直驚いた。まさかこんにゃくを釣り竿で釣って、それを人に触れさせるとは……。
「どうだった? 我がクラスのお化け屋敷は」
部長がわざわざ出てきてくれて、僕達に声をかけてきてくれた。
部長の言葉に、僕は頷く。
「……かなり怖いお化け屋敷でしたよ」
「そうか! 実は去年もお化け屋敷だったのだがな。色々と進化させているのだよ。来年もお化け屋敷にするつもりだ。ふふふ、お化け屋敷からもう逃れることは出来ないぞ、諸君……」
何だか、部長の面倒になるクラスも可哀想だな、と思いながら僕達は立ち去るのだった。
そうして、気がつけば十七時を過ぎていたので、後片付けに追われることになる。
一日の休息が与えられるとはいえ、片付けが今日中に終わらなければそれが充填されてしまう。だったらさっさと今日中に片付けを終わらせて、明日を八角にしてしまった方が良い。僕はそう思って何とか馬車馬のように働いた。
その結果、後片付けは女子の着替えを含めて二時間余りという短時間で終了するのだった。
「……あずさ、アリス」
「どうしたの?」
「……何?」
僕は意を決して、話を始める。
「明日、会わないか?」
「明日? 別に構わないけれど……アリスは?」
「私も良いけれど……どうして?」
「ちょ、ちょっと買い物でもしようじゃないか。文化祭も終わったし、暇だろ? 暇しているぐらいなら、外に出て買い物でもしようぜ、って話なんだけれど」
「それぐらいだったら問題ないよ。何処で集まる? 学校の校門が一番かな?」
「そうだね。そうしようか。アリスもそれで良い?」
こくり、とアリスは頷いた。
言質は取った。後は行動をするのみだ。
そう思って――僕は明日に備えるのだった。
※
「……遂に作戦の時がやって来たわね」
「ああ。俺達は『ある瞬間』まで手出ししない。そうだったな?」
「ええ。そうしないと彼女の記憶が元に戻らない。だから、それを利用させて貰う」
「……純情な子供の感情を利用するというのも、何だか悲しいものだよな。この国も何処まで落ちたんだろうな」
「あら? そんな国を守る仕事に就いているのが、あなたと私ではなくて?」
「……そりゃそうなんだけれどよ。でもやっぱりやっていることは残虐非道この上ないぜ。やっぱり今からでも作戦を変更するべきじゃ……」
「じゃあ、どうやって『記憶』を取り戻すつもり? 正直、今残されている方法で一番可能性が高いのはこのやり方しかないのよ」
「……分かっているよ。元はといえば、俺達のミスでやってしまったことだ。だから、あんたのやり方に従う。それで良いだろ?」
「最初からそう言っていればいい話なのよ。分かった?」
「分かったよ。それじゃ、これからは『監視』に移る。それで相違ないな?」
「問題ありません。私も仕事が残っているから、これからの連絡は出来ないのでそのつもりで」
「了解」
そうして、二人の通信は終了した。
※
夏が終わる、その前に。
出来ることなら、彼女達を助けることが出来るというのなら。
僕はその望みにかけてみたいと思っていた。
だから、僕は――『逃げる』ことを選んだんだ。