クスノキ祭 ㉜
- 2019/06/11 17:57
「クイズ研究部を創立する?」
「うん。八事さんも同じことを思っていてさ。……どうせなら、全国のクイズ大会に参加出来るような器を用意してみるのはどうだろうか、って話になったんだよ。昨日のことがよっぽど手応えになったんだね」
「それは、栄くんだって同じことを言っていたじゃない」
栄くんと八事さん、それに僕とあずさとアリス。
そんな五人が、テーブルを共有して、テニス部の特製焼きそばを食べているのだった。
「良いんじゃない? 面白そうだし。私も応援するよ」
あずさの言葉に栄くんは少しデレデレしながら答えた。
「あ、ありがとう……。そう言われると少し照れちゃうな」
「照れるぐらいだったら、部活動作るの辞める?」
「そ、そんなあ……」
栄くんはすっかり八事さんの尻に敷かれているような気がする。
まあ、普段からそんな性格のような気もするししょうがないか……。
栄くんは焼きそばを啜った後、僕に語りかける。
「いっくんはずっと宇宙研究部に在籍するつもりかい?」
僕はそれを聞かれ、ドキッとした。
何かを知っているんじゃないか、と勘繰ってしまうレベルだった。
「どうして急にそんなことを口にするんだ?」
「いや、だって、宇宙研究部もずっとは続けていられないでしょう。やっぱり大会とかそういうものがない部活動は長続きしないよ」
「それって、クイズ研究部も似たようなものなんじゃないの?」
「クイズ研究部は意外と大会があるもんだよ。気になったら、後で調べてごらん」
「……うぐぐ」
そう言われると、何も言い返せない。
確かに宇宙研究部の表だった実績なんて何も出てこない。せいぜい怪しい雑誌にUFOの写真を掲載して貰うぐらいとか? でもそれが実績になるのかどうかは全然分からないけれど。
そもそも。
部長がどういう道を歩もうとしているのかが、さっぱりと見えてこない。この部活動は出来たばかりだというけれど、もしかしたら部長の一存で部活動が潰れる可能性だって、充分に有り得るのだ。もしそうなれば、僕はどうすれば良いのだろうか?
彼女達と出会えた、唯一の繋がり。
それを失うことになってしまうのだろうか?
それは悲しい。出来ることならそのまま残して欲しい、と思ってしまう。
「……いっくん? 箸が止まっているけれど、どうかした?」
僕はその言葉を聞いて、我に返る。あずさの言葉だった。
あずさはいつも元気だ。あずさも――アリスも――クスノキ祭が終わったら、戦争の道具として連れ去られてしまうのに、僕はいったい何をしているというのだ。
僕は何故ここで立ち止まってしまっているのか。
言われただろうが! あの殺人鬼、御園芽衣子に。
――いっくんがやりたいことを、やれば良いと思うぜ? 俺は。
僕はその言葉を胸に生きていくと決めただろうが! 池下さんにも言われた。逃げる機会が与えられているのは、僕だけだと。彼女達自身には逃げる機会など与えられてはいないのだと。だったら、逃げる手助けをしてやるのが僕の役目――じゃないのか?
「いっくん? おーい、いっくん。どったのさ。少しは反応して貰わないと困るんですけれどー!」
「……うん? い、いや、何でもないよ。少し考え事をしていただけ」
いつかは、話さなくてはならない。
そう思いながら、僕は焼きそばを啜った。
焼きそばの味など――とうに感じなくなっていた。