クスノキ祭 ㉛
- 2019/06/11 17:03
シフトの時間がやって来た。その時間というのは虚無そのものである。そんなことを呟いていたら栄くんが「お客さんに迷惑だよ、その言葉」って言われてしまった。ごもっともである。しかしながら、休憩所として用意したこのスペースも人が捌けることがない。なんというか、常に人が居るんじゃないか、って思えてしまう。もしかしたら常にこの場所に居る奇特な人も居るのかもしれない。実際に調べてないから何とも言えないけれど。
「……とにかく、シフトの時間だけは真面目に働いた方が良いよ? じゃないと分配金がきちんと支払われない可能性が出てくる。ペイ出来ないのは問題だろ?」
それもそうだった。
元々支払ったお金は僕のお小遣いから支払われたお金であったため、それがペイされないのはそれはそれで問題なのである。幾らか戻ってくれないと、来月のお小遣いが……。
いや、そういう問題ではない。
今、話しているべき問題はそんな問題ではないのだ。
――逃げるなら今のうちだぜ。
昨日、池下さんに言われたその言葉。
その言葉を僕は忘れることが出来なかった。出来るはずがなかった。
「……どうすれば、逃げられるのかな」
「え?」
「ああ、いや、こっちの話。最近はまっている戦略シミュレーションゲームがあってね……」
「ああ、ああいう系は一度はまると面白いよね。で、何で急にそんな話題に?」
「えーと……、話す内容がなくなったから?」
「それ、本気で言っている?」
栄くんに本気で怒られてしまった。
まさか怒られるとは思っていなかったので、僕はひたすら謝ることしか出来ないのだった。
※
そんなこんなでシフトの時間も終わり、
「これから三人は暇?」
「暇というか、まあ、それを言うと微妙なところだけれど……」
「暇じゃないの?」
「要するに暇ってことだよ。いっくんの言葉遣いって回りくどいからねー」
あずさに補足されてしまい、僕はげんなりする。
というか、そんなに理解されにくい言葉遣いだったのかな……。
「だったら、僕達のクイズ大会の決勝に見に来ないか?」
「クイズ大会?」
ああ、そういえば、昨日栄くんと八事さんが決勝に進出していたっけ。
「決勝は二つのペアで対戦するんだ! きっと盛り上がること間違いなしだよ!」
「ねえねえ、どうせ見るものもないんだし、見に行ってみない?」
「うーん、そうだなあ」
出来ることならもっと見て回りたかったけれど……。
ぐう。
そんなことを考えていたら、腹が減った。
そういえば昼休みもぶっ通しでシフトに入っていたので、お昼を食べていないのだ。
「あはは。取り敢えず、昼ご飯にしようか。テニス部の特製焼きそばでも食べながら、歓談と行こうじゃないか」
僕はその意見に同意して、栄くんについていくことにするのだった。