クスノキ祭 ㉖
- 2019/06/10 21:38
『十七時になりました。間もなく閉門の時間になります。お忘れ物のないようにしてください。……また、生徒の皆さんにご連絡します。後夜祭は、十八時より行います。片付けを済ませてから、是非ご参加ください。よろしくお願いします』
長い一日目が幕を下ろした。
どっ、と疲れが出た感覚に陥った。
不味いぞ、自分。未だ一日目なんだからな。未だあと一日残っているんだからな……?
「いっくん、どうしたの。そんな疲れたような顔して。未だ一日目が終わったばかりじゃない」
「あ、あはは……。それぐらい分かっているよ。大丈夫、大丈夫。問題なし」
「ほんとうに? ……何だか凄い心配になってくるけれど。いっくんが大丈夫と言っているなら良いか!」
本当に良いと思っているのだろうか?
答えは見えてこない。もしかしたら、あまり気にしていないだけなのかもしれない。
そうそう、気にしたら負け。答えはそういう風に決着が着いている。
「いっくんも片付け手伝いに行くでしょう?」
ずい、と手を引っ張られた。
「おい、手を引っ張るなよ。歩けるから……歩くから……」
「あら、そう。なら良いんだけれど」
おい、いきなり手を離すな! 危うく転びそうになったぞ。そんなことあずさは気にしていない様子で、ただ僕の顔をニコニコと見つめていた。何だ? 僕の顔に何かついているか? 顔はきちんと洗ってきたからそんなことはないはずなんだけれど。強いて言うなら、昼ご飯のガパオライスの肉片が口の周りについているとか? それはそれで汚い食べ方をしていると認めることになるのだけれど。
「……何か変なものでもついている?」
「いや、そんな訳はないけれど。ただちょっと気になっただけ」
気になっただけ?
それだけでじっと顔を見つめていたのかよ。
何というか、あずさらしいけれど。
「とにかく、片付けに行こうぜ。そうしないと先ずは話が始まらないんだろ。……さ、」
今度は、僕が手を取る。
あずさはそれを受け取って、僕と手を結んだ。
思えば、三ヶ月ずっと活動してきて、彼女と手を繋いだこともなかった。
「あずさばっかりずるい。私も繋ぐ」
もう片方の手を、アリスが強引に奪い取っていく。
何だかこれじゃ、カップルというよりは親子みたいな関係性みたいだ。
……でも、こんな日常も長く続かないことは知っている。
知っているんだ。クスノキ祭が終われば、大人達は全力で彼女達を戦争の道具に使う。
僕はそれから逃げなくてはならない。僕はそれから逃げ出さなくてはならない。
どうやって?
どうやって、逃げれば良い?
答えは見えてこない。
答えは――暗中模索といったところだった。