クスノキ祭 ㉕
- 2019/06/10 19:46
体育館では、『涼宮ハルヒ』の歌が演奏されていた。あれってもう十五年以上昔じゃなかったっけ? リアルじゃ僕達には関わりのない歌だったと記憶しているけれど……、でも意外と盛り上がるんだな。やっぱりバイブスが上がる? って奴? 良く分からないけれど、なんとなく言ってみました、はい。
「一年三組でメイド喫茶やっていまーす。いかがですかー」
「……いかがですかー」
バンドサウンドの鳴り響く中、メイド服でビラ配りをする二人。残念ながらその声はかき消されてしまっており、アリスに至っては近距離で居るのに何を言っているのかさっぱり分からない状態だ。
「なあ、あずさ。これってやっぱり失敗だったんじゃないか?」
「何言っているのよ。失敗な訳ないでしょう? ちゃんと受け取っている人も居るし。成功も成功、大成功よ」
ほんとうか?
でも、確かにビラの枚数はさっきより減っているような気がする。
「ね? 悪くないでしょう?」
確かに。
あずさの考えも悪くないのかもしれない。
正しいかどうかは別として。
「さあさあ、まだまだ配り続けるわよ! 一年三組でメイド喫茶をやっていまーす、いかがですかー!」
バンドはというと、歌が切り替わり、四、五年前に出たボカロ曲が演奏されていた。僕も知っている歌だ。若くして亡くなってしまったんだよな。あのときはちょっと何言っているか分からなかったぐらいだったし、その当時中学生や高校生、或いは大学生だった人たちはもっと感傷に浸っていたのかもしれない。
しかし、高速なメロディと歌詞、良く歌いきれるな。僕なら途中で舌が回らなくなりそうになるけれど。
「……よしっ、終わったよ、いっくん」
「嘘だろ、もう終わったのかよ?」
確かにあずさの両手はもう何もなかった。
アリスは未だ終わっていないようだったが、それでも数は残り僅か、といったところだろうか。それにしてもどれくらいの人間がビラを受け取ったのだろう? もう多くの人間が受け取ったものだと思っていたけれど、この様子だと未だ受け取り切れていない人間が居るのかもしれない。
「アリスもちゃっちゃと配っちゃって。そしたらあとは自由行動だから」
「……うん、分かった」
ほんとうに分かっているのだろうか。
アリスは案外その辺り無頓着だからな。
もしかしたら何も分かっていないのかもしれない。あくまでも僕の勝手な妄想だけれど。
「……終わった」
「はやっ!」
アリスも配り終えたようだし、後は自由行動。
それじゃ、しばらくバンドサウンドでも聞いていこうぜ。僕の進言に二人は従順に頷いてくれた。