クスノキ祭 ㉑
- 2019/06/10 01:41
「一年三組でメイド喫茶やってまーす。よろしくお願いしまーす!」
「……よろしくお願いします」
あずさとアリスの二人がビラ配りをしている中、僕は何をしているかというと、暇だったので日陰でスマートフォンを操作していた。学生だから不味いんじゃないか、って話もあるけれど、今は土日だし何しろ文化祭の真っ最中だから問題なし。
SNS上では、今日も楽しそうな会話が繰り広げられている。
僕は、ぽつり気になってあるワードを検索欄に入力していた。
――戦争。
つぶやきは直ぐに引っかかった。博愛主義者による戦争反対のつぶやきばかりが並べられていた。違う、違うんだ。僕はそんなことが見たかったんじゃない。僕が見たかったのは――。
「彼女達は、戦争に向かうことになる」
いつかの何処かで、誰かが言ったその台詞を反芻させて、僕はすっと胸をなで下ろす。
やりたいことはそうじゃない。
考えたいことはそうじゃない。
見つけたいことはそうじゃない。
僕がやりたいことは――そうじゃない。
「戦争って、何なんだろうな」
僕は思わずぽつりと呟いていた。
その言葉に気づいた人は誰一人として居なかっただろうけれど。
しかしながらその言葉は、ある種真理を突いていたのかもしれない。
「お待たせ、いっくん。思ったより時間がかかっちゃって」
「……ビラ配り、一人で出来た」
「おー、よしよし、良く出来たね、アリス」
あずさとアリスが戻ってきたので、僕はスマートフォンを仕舞う。
「誰かから電話でもあった?」
あずさの言葉に僕は首を横に振った。
「ふうん。……何だか、つまらなさそうな表情を浮かべているけれど、大丈夫?」
「僕が? そんなことある訳ないだろ。安心しろ、僕は僕だ。それ以上の何物でもないさ」
「……変ないっくん。だったら良いんだけれどね」
僕の言葉に、あずさはただ従ってくれた。
それが僕にとっては嬉しかった。
それが僕にとっては楽しかった。
それが僕にとっては――有難かった。
「さ、行こう? いっくん。ビラ配りも終わったし」
「終わったの? だったら何処に行こうかなあ。時間は、えーと……未だ十時半か。時間はあるし。ステージを見ても良いし、クラスの出し物を見ても良いし」
「ステージって何やるんだっけ?」
「えーと、この時間だと……『クイズ大会』になっているね。うちのクラスからも……八事さんと栄くんが参加する予定だったはずだよ」
「栄くんのシフトってどうなっていたっけ?」
「僕と同じだから、午後一のはずだよ。だからクイズ大会に参加しても問題なし。……というか、決勝は明日だしね」
「今日は予選?」
「そういうこと」
僕はクスノキ祭のパンフレットをフリフリと振りながら、そう言った。
「じゃあ、ステージを見に行こうよ!」
あずさは僕に向かってそう言った。あずさがそう言うなら仕方ない。……アリスはどう思っているのかな?
「アリスはどう思う? ステージを見に行く? それともクラスの出し物見に行く?」
「……私も、ステージ見に行きたい」
満場一致ということで。
僕達は時計塔の下にあるステージへと向かうのだった。