クスノキ祭 ⑳
- 2019/06/10 01:13
開始十五分前にもなって、未だ準備が終わっていないクラスや部活動があるらしい。
そんな慌ただしい様子を横目に見ながら、僕達はただ歩いているのだった。
「ま、一年に一度の大勝負といったところだからねえ。みんな大変なんじゃない?」
未だ一度も経験したことがないくせに何を言っているのだ、と言いたいところだったが、それ以上は言わないでおいた。
「一年に一度、か。確かにそれなら経験しておいた方が良いと思うけれど。やっぱり、初めてだらけだから緊張しちゃうなあ……」
「嘘でしょう、それ」
「……何でバレた?」
「いっくん、そんなこと言わないもん。私はいっくんのこと信じているからね」
信じている、か。
そんなことを言われると、小っ恥ずかしいな。
僕はそんなことを考えながら、話を続ける。
「にしても、だ。僕達宇宙研究部にはやることがない訳だし、実際参加出来るのはクラスの行事だけ。となるとやっぱり暇と言えば暇になるんじゃないか?」
「宇宙研究部で展示でもやれば良かったのにねえ……、何で出来なかったんだろう?」
「噂によると、空き教室が撮れなかったらしいって話だけれど。だから、メイド喫茶とかやっているいわゆる『休憩室』としている出し物に何十部か提供しているらしいよ。無料で配るんだとか」
「印刷代は?」
「部長のバイトマネーで賄われているよ。……ま、僕達に一銭もかからないのは良いことなのかもしれないけれど」
「それっていつ話があったっけ?」
「こないだ。……そういえば、あずさとアリスは休んでいたから知らなかったかもね」
「そうだったのね……。流石に知らなかったなあ。部長も言ってくれれば、協力ぐらい出来たのに」
「協力って……」
具体的には金銭的な支援、といったところだろうか。
それが出来たところで何の問題が、といったところなのだろうけれど。
まあまあ、それは言わずもがな、と言ったところだろうか。
『皆さん、お待たせ致しました』
そんなこんなで校内を歩いていると、放送部のアナウンスが聞こえてきた。
『これから「クスノキ祭」一日目が開催されます。皆さん、是非最後まで楽しんでいってくださいね!』
ワイワイガヤガヤ、と。
校門の方が五月蠅くなってきたような気がする。
窓から外を眺めると――校門の方から続々と人が入ってきている。
うわあ、あんなに人が入ってきているのか……。
うちのクラスにはどれくらいの人間がやって来るんだろう?
そんなことを考えながら、僕は歩くのを再開するのだった。