クスノキ祭 ⑭
- 2019/06/09 15:13
そういえば他のメンバーは何を書いているんだろうか。
少し興味が湧いたので、休憩がてら全員の原稿を見てみることにした。
あずさの原稿は……エッセイ? UFOというよりは宇宙研究部で起きたことを書き連ねているように見えるけれど――。
「ちょっと、いっくん! 人の原稿勝手に見ないでよ」
止められてしまった。
そうなってはもう何も出来ることがない。
僕は次の原稿に移動した。
次の原稿は――アリスか。アリスは、漫画を描いているようだった。
UFOとやって来た宇宙人についての漫画のようだった。読み進めてみることにする。一コマ目、UFOが空がやって来た。総理大臣を模した人間が「UFOだ!」とそれを指さして言っている。まあ、それだけを見ればただの冒頭の一コマだ。寧ろ模範的な一コマと言っても良いだろう。二コマ目、UFOは着陸し、そこから宇宙人が降りてくる。宇宙人は「この星は我々が頂いた」と言い出す。これもまたありがちな展開だ。そこからどう落ちに持って行くつもりなのだろうか? 三コマ目、様々な兵器を総動員して戦っている絵。正直、ここに一番力が入っているような気がする。他のコマが手抜きであるとは言わない。けれど、このコマに関する力が何処か強いような気がするのだ。さて、残り一コマ、この物語はどう終結するのだろうか――? 四コマ目、そこにあったのは白だった。何もない白だった。その白には堂々とした何かがあるように見えて、何もない世界を表現しているように見えて、何もいない空間を表現しているように見えて、結局は何が何だか分からない世界観だった。その一コマで全てをぶち壊されたかのような、そんな感覚だった。いったい全体、アリスは何を書きたかったのだろうか? 僕はそう思って、その原稿を指さして、呟いた。
「アリス。この原稿、どう落ちをつけるつもりなんだ?」
「……さあ?」
「さあ、ってお前……」
それ、全世界の漫画家を敵に回した発言だぞ。それでも良いのか?
でもまあ、アリスはそこまで深く考えていないのかもしれない。それがアリスなりの考えなのかも。
……思えば、アリスは戦争について詳しいんだったな。詳しいというよりかは、事実を知っていると言えば良いだろうか。
となると、やっぱりこれは今後の戦争を思わせた何かなのだろうか。
今後の戦争において――未来を予見した何かなのだろうか。
分からない。その答えを、今は導くことが出来ない。
けれど、僕は。
二人を――どうしても守りたかった。
どうして二人をこんな平和な空間から抜け出させる必要があるんだ、と思った。
彼女達にも平穏を共有する権利はあるはずだ、と思った。
だから、だから、だから――。
「……いっくん、どうしたの?」
あずさの言葉を聞いて、我に返る。
「ん、い、いや、何でもないよ」
その表情を――池下さんがじっと眺めていることに、僕は直ぐに気づくのだった。