エントリー

2019年06月の記事は以下のとおりです。

観測活動の再開 ①

  • 2019/06/01 04:11

※ここから二巻分です。上下巻の下巻構成と思ってください。

 

――

 

 九月というのは、夏と言うべきか秋と言うべきかややこしい時期だと思う。ゲーム会社によれば九月は『夏』というらしいし、一般の時期を考えれば『残暑』なんて言葉もあるぐらいだし、やっぱり夏なのかもしれない。秋という意見もあるかもしれないけれど、それはやっぱり受け入れるべきなのだろう。いいや、そうだ。夏ではなく、今は秋なのだ。
「そう考えて、心頭滅却しようとしても無駄なことだと思うよ?」
 後ろに座っていたあずさは、僕の言葉を聞いていたのか、僕の思考を感じ取ったのか、そんなことを言い出した。ってか、僕がそんなこと口にしていたのだろうか。言っていたならば、僕は悪いことを口にしたのかもしれない。
「そもそも、心頭滅却して暑さ忘れるって、仏僧だか誰だかの言葉じゃなかったかな? 僕達一般市民にはあまり関係のないことだと思うのだけれど」
「だったら、九月が夏だか秋だか考える暇があるんだったら、クラスの出し物調査に少しは協力しなさいな」
 そう。今は放課後前のホームルーム。
 九月下旬に迫った学園祭のクラス出し物を決定するミーティングのようなものを行っている真っ最中なのだ。
 なぜ、『のようなもの』と付帯したかというと、それがミーティングというにはあまりにもちゃっちくて、どうしようもなく面倒なことになっている。というか、簡単に言ってしまえば、クラスの出し物は、先程から明示されていた『メイド喫茶』に決まっていたのであった。
 どうして中学生でメイド喫茶なんてやらねばならないのだ、と思っていたが、クラス担任の徳重先生は特段何も気にしていない様子だった。それじゃ、先生の意味がないじゃないか、なんて思っていたけれど、しかしながら、そこで先生が突っ込みを入れれば、先生の意味はあってもクラスの自主性は問われないだろう。
「……やっぱり、男子ってメイドが良い訳?」
「良いかどうかと言われると、うーん、困っちゃうな」
 困っちゃうな、って何だよ。
 我ながら、返事に困る回答をするんじゃない。そう思いながら、僕は思いきり身体を後ろに捩らせる。
「だってさ、考えてもみてくれよ。やっぱり客寄せには、メイドが一番だと思わないか? 女子に負担を強いるのはどうかと思うけれどさ。男子は料理を作ることで帳尻を合わせれば良い話じゃないか。そうは思わないか?」
「そりゃ客寄せには便利だろうけれど……、やる身にもなってほしいものよ、メイドって。いっそ男子がメイドをやれば良いのに」
「それ、どこに需要があるんだ?」
「さあ? あるかもしれないし、ないかもしれないし。もしかしたら、意外と客が集まるかもよ?」
「嫌だね、やりたくない。……それに需要があったら、それはそれで嫌だ」
 

ラブレター ⑩

  • 2019/06/01 00:00

 エピローグ。
 というよりただの後日談。
「結局、ラブレターってどうなったんだ?」
 僕は単純な疑問を投げかけた。
 僕は(ある種)明白な疑問を投げかけた。
 僕は簡単な疑問を投げかけた。
 それは答えが分かっている、単純でシンプルな正解だったというのに。
 分かりきっていて、それを訊ねること自体が愚問だと言える話だったというのに。
 でも、僕は質問した。
 でも、僕は詰問した。
 ――ラブレターはどうなったのか、と。
 その質問について、彼女はこう言い放った。
「…………ラブレターって、何?」
 ああ、そういうことか。
 そもそもの問題として。
 そもそもの課題として。
 そもそもの疑問として。
 彼女がラブレターのことを知らなかった、ということなのだ。
 仮に大量のラブレターを手に入れたとしても、その意味を理解していなければまったく意味がないということだ。
 良く考えれば単純なことだったのだ。
 良く考えれば簡単なことだったのだ。
 それがそうであるならば、分かりきった話であるとするならば、僕は何も否定しない。僕は何も肯定しない。それが分かりきっている話であるんだ。だったら、僕は何も言わないだろう。というか、転校生に皆期待しすぎななのだ。転校生がどれだけパーフェクトな人間だと思っているのだろうか。転校生がどれ程完璧な存在だと思っているのだろうか。転校生のことを、買いかぶりすぎじゃないか、と言いたいぐらいだが、それはそれとして。言わずもがな、というところだろう。それが分かっているんだ。というか、分かっているのは同じ部活動に加入している僕達ぐらいしか知らないことも多いのだろう。
「……ラブレターのことを知らないなら、一から教えて貰え、あずさに」
「なんで私に?」
「いや、だって、そういうデリケートな話題は同じ性別の人間同士で言い合った方が良いだろう?」
「そういうものなのかねえ……」
「そういうものだろう?」
 それ以上は言うのは野暮ってものさ。
 僕はそんなことを考えながら、『屍者の帝国』を読み進めるのだった。

   ※

 もう一つ。後日談があるとするならば。
 あずさが買ってきておいたお土産があまりにも消化されていなかった、ということだろうか。仕方がないと言えばそれまでなのだけれど、気づけば量が減ってきている。いったい全体誰が食べているんだろう……などと思っていたら。
「……あ」
 ある日、あずさが自らの鞄にお土産を仕舞っているのを目撃してしまった。
 ……別にそれをしなくても良いだろうに。僕はそんなことを思いながら、静かに部屋の扉を閉じるのだった。

ページ移動

ユーティリティ

2019年06月

- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

カテゴリー

  • カテゴリーが登録されていません。

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ページ

  • ページが登録されていません。

ユーザー

新着エントリー

過去ログ

Feed