逃避行のはじまり ①
- 2019/06/11 23:44
ここで一つ忠告をしておきたい。
何故なら、ここから先は日常なんてものは存在しないと言うこと。
僕達が戦い抜いた『記録』であるということ。
そして、それを、全てを、知って貰いたい。
※
日付は遡り――クスノキ祭前日。
正確に言えば、零時を回っていたので当日であるとも言える。
僕はある人物に再会していた。
相浜公園のブランコで、またあいつに出会ったのだ。
「いっくん、やっほ。出会ったのは、久しぶりだね?」
殺人鬼、御園芽衣子。
かつて僕と出会い、話し合い、命のやりとりをした人物。
そんな人間のことを――僕はすっかり忘れてしまっていたのだけれど、どうして、こんなところに居たのだろうか?
「何だよ、いっくん。生きているとは思わなかったか?」
ぎこぎこ、と金属が擦れ合う音が響き渡る。
夜中。誰も居ない公園にて、一組の男女が出会う。
それだけ切り取れば、何だかロマンティックな風景にも見えてしまうけれど。
生憎僕と彼女にはそんな関係性は存在しない。
殺すか、殺されるか。
ただその関係性でしかないのだった。
もっとも、僕に殺人鬼を殺すことが出来るかどうかは――分からないけれど。
「何だよ、いっくん。もっと近づいて話しよーぜ。でないと流石に大声を出し続けていくのは近所迷惑になるだろ?」
あ、殺人鬼にもそんな感覚ってあるんだ。
僕はそんなことを思いながら、相浜公園に入っていく。
隣のブランコに座ったところで、御園芽衣子はにひひ、と笑いながら話を始めた。
「実はちょっと前まで居なかったんだけれどさ、またここに帰ってきたんだよ。やっぱり、実家に近いところだとやりやすさが違うよな? そうは思わないか、いっくんは」
「僕は……ここに引っ越してきたばかりだから分からないな」
「そうだったっけ?」
そうなんだよ。
お前みたいに、常に逃げ回っている人間じゃないからな。
僕はそう思いながら、ブランコを漕ぎ出した。
ぎこぎこ、とブランコが揺れる音が聞こえる。
「でもまあ、しばらく見ないうちにいっくん、変わっちまった気がするな」
「どういうこと?」
「何だか知らねーけれど、ちょっとやる気が出てきたってゆーの? そういう感じというよりかは、少し覚悟を感じるようになったといえば良いのかな? いずれにせよ、何かあったんだな、って感じはするよ、あのときよっかは」
「……そうかな?」
「そうだぜ。周りが見えていないだけの馬鹿に見えたか、俺が?」
「いや、そうとは思わないけれど……。でも、それは正しいことだと思う」
「正しい? やっぱり、俺の言っていることは正しかったんだな。んで? いったい全体、何があったっていうのさ? 少しはこのおねいさんに話してみたらどうだい?」
おねいさん、って。
年齢もそんなに変わらないだろうに。
僕はそんなことを思いながら――けれど、彼女になら話せるような気がした。
彼女となら、腹の探り合いをせずに、話せるような気がしたのだ。