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2019年06月01日の記事は以下のとおりです。

観測活動の再開 ④

  • 2019/06/01 15:27

 その日の放課後。
 僕達はいつものように、瑞浪基地に向けてカメラを向けていた。理由は明白、瑞浪基地からUFOが飛び立つからだ。それを僕達は(正確に言えば、部長と池下さんは)二度も目撃している。だからまた何処かのタイミングでUFOは飛んでくれるはずだ。僕達はそう、まるで願っているかのように思っていた。
 しかしながら、UFOは目撃出来なかった。
 それどころか。
「……あれ? カメラの調子がおかしいような……」
 発端は、その一言からだった。
「どうした?」
「ああ、いや、何でもない。きっと直ぐに直るはずだ……多分」
 多分、って。
 曖昧な一言を口にしてしまったぞ、この人は。
 そんなことを思いながら、僕はただひたすら調整し続けている池下さんを見ることしか出来なかった。何せカメラの知識などとんとないのだ。UFOに関する知識も父が持っていた蔵書から若干得たぐらいだし、結局はそこまで知識を得ている訳ではない。
「……うーん、でもやっぱり直らないなあ。何が原因なんだろう? さっぱり分からない」
「壊れたんじゃないのか?」
「壊れたのかもしれない」
 部長と池下さんとの会話は、至ってシンプルなものだった。
 それでいて、内容ははっきりと重要なことをピンポイントに伝えている。
 そういう関係が居ないから、何というか、羨ましさすら覚える。
「取り敢えず、仕方がないけれど、今日の観察は中止にしよう。良いかな、みんな?」
「仕方ないですよね」
「そうそう。仕方ない、仕方ない。慌てない、慌てない」
 そんなことを言ってもなあ。
 僕は別にUFOの観測をやろうともやらないとも、どちらでも良いのだけれど。
「……ところで、次の土曜日は空いているかい?」
 池下さんは唐突にそんなことを言い出した。
 次の土曜日というと……三日か。母さんの誕生日だけれど、お祝いは夜にすればいいだろう。
「ないですよ。何かあるんですか?」
「カメラの修理に一緒についていかないか、って思ったんだけれどね。珍しいことだと思うし、どうだろう? 宇宙研究部がみんなで集まることなんて滅多にないから……」
 宇宙研究部は毎日集まっているように見えるけれど。
「ないですよ、私も特に」
「…………私も」
「僕も、だ!」
「よし! 全員OKだね! だったら、みんなで一緒に行こう。カメラ店は鎌倉にあるんだ。序でに鎌倉観光とも洒落込もうぜ」
 そう言って。
 宇宙研究部、土曜日の鎌倉観光が決定するのだった。

 

観測活動の再開 ③

  • 2019/06/01 08:45

「あはは。そいつは結構。何故だか知らないけれど、我がクスノキ祭には例年メイド喫茶をやるクラスが出てくるんだけれど……、そうか、今年は君達のクラスになったか。まあまあ、面白い話じゃないか。今年は楽しいお祭りになりそうだな、なあ、池下」
「今年は、って、まるで去年がつまらなかったような物言いだけれど、別段、そんなことはなかっただろう? それに、俺達は、ずっと部活動の方に尽力していた訳だし」
「え? 部活動の方も何か出すんですか?」
「寧ろ出さないと思ったのか?」
 思ってました、はい。
「……まあ、良い。部活動の方も何か出すことは決まっているよ。例えば陸上部なら都区聖ジュース、テニス部なら焼きそばという感じでね……。我が宇宙研究部は何をするか、教えてあげようか?」
 是非、教えて貰いたいです。
「我が宇宙研究部では、新聞を発行する! 無論、ただの新聞ではないぞ! 今までのUFOやその他諸々の知識を総決算したものになる! 我が宇宙研究部はそのために活動していると言っても過言ではない!」
「とか言って、参加は今年からだろう? 部長」
「どういうことですか?」
「この部活動が出来たのが、今年だって話さ。去年には影も形もなかった。俺とあいつが遊べる場所が欲しかった。ただそれだけの理屈なのさ……」
 それってまるで、遊び場所が欲しかった子供みたいじゃないか。
 そんなことを言いたかったけれど、すんでのところで言い留まった。
「……まあ、この部活動の総決算ってのは間違いないだろうな。来年は受験があるから、部活動に執心出来る訳でもないだろうし」
「え? じゃあ、この部活動も終わりってことですか?」
「何だい? 君達が引き継いでくれるとでもいうのか?」
「それは……」
 言い切れなかった。
 言い出せなかった。
 だって、アリスが宇宙人かもしれないのに。
 いつまでも一緒に居られるとは限らないのに。
 言えなかった。
 言えるはずがなかった。
「……まあ、そんな暗い気持ちにならなくても良いよ。未だ半年以上もあるんだ! 全然UFOは観測出来るだろうし。僕達もずっとUFOを観測し続けられれば良いんだけれどね……」
「良いんだけれど……、何ですか?」
「そこまで世間は甘くない、って話だよ」
「そういうことですか」
「そういうことだよ」
 いや、つまりどういうことだよ。
 分かりたくないのかもしれない。理解したくないのかもしれない。
 いずれにせよ。
 僕達の生活は、これ以上長くは続かないだろう、ということ。
 それを直ぐに思い知らされることになるのだけれど――その頃は、僕は何も知らなかった。
 知らずにいた。
 知らない方が幸せだったのかもしれない。もしかしたら。

 

観測活動の再開 ②

  • 2019/06/01 06:21

 昔、主人公が女子校に潜入するために女子に変装したら似合いすぎた、なんていうケースがあったらしいけれど、正直そこまでにはなりたくない。はっきり言って、そこまでプライドを失いたくない。
「……えーと、取り敢えず、このクラスとしては『メイド喫茶』をやるということで決定で良いですか」
 言ったのはクラス委員の藤岡だった。藤岡は眼鏡をかけた清楚な雰囲気を漂わせている女子だった。藤岡は、自分のクラスの出し物がメイド喫茶に決まったら、メイド服を着ることになる、ということを理解しているのだろうか。分かっているのだろうけれど、否定意見がないから仕方なくそれに同調しているだけ、なのかもしれない。
「反対意見、反対意見はありませんね? だったら、『メイド喫茶』で決定になるんですけれど。ほんとうに良いんですね?」
 よっぽど嫌なんだろうか。
 いや、普通に考えてみればメイド服を好き好んで着ることなんてないか。
「……それじゃ、『メイド喫茶』に決まりました……」
 ぱちぱち、と寂しい拍手が起こる。
 何というか、切ない気分になるけれど、致し方ないといえばそれまでなのだろう。
 僕もメイド服は着たくないし、普通に考えて女子がメイド服を着るのだろうな。
 ……ところで、大量のメイド服を何処から仕入れてくるつもりなのだろう?
「続いて、メイド服を借りる場所ですけれど、」
 あ、やっぱり聞くんだ。
「……例年通り、『豊橋制服店』から借りるということで宜しいですね?」
 例年通り?
 ということは、毎年何処かのクラスがメイド喫茶を所望しているってことか。
 陰謀か? 何かの陰謀なのか?
 僕はそんなことを思ったけれど、それよりもその制服店にメイド服が大量にあることが問題だな、と思うのだった。

   ※

「クラスの出し物? ああ、うちのクラスは例年通りお化け屋敷だよ。食べ物を出す場合は、検便が面倒だからね」
 検便?
「知らないのか? 食べ物を出す場合は、例えば密封されているもの以外を提供する場合は、保健所に検便を提出する必要があるんだよ。……それが嫌だから、出来合いの食べ物ばかりを提供するようになってしまったのだけれどね。でもまあ、致し方ないことだろう? 普通に考えて、検便をやろうなんて思う方がおかしな話だ。……ところで、君達のクラスは? まさかメイド喫茶をやろうなんて言い出さないだろうね」
「……ご明察です」
 肩を竦めて、僕はそう答えた。
 

観測活動の再開 ①

  • 2019/06/01 04:11

※ここから二巻分です。上下巻の下巻構成と思ってください。

 

――

 

 九月というのは、夏と言うべきか秋と言うべきかややこしい時期だと思う。ゲーム会社によれば九月は『夏』というらしいし、一般の時期を考えれば『残暑』なんて言葉もあるぐらいだし、やっぱり夏なのかもしれない。秋という意見もあるかもしれないけれど、それはやっぱり受け入れるべきなのだろう。いいや、そうだ。夏ではなく、今は秋なのだ。
「そう考えて、心頭滅却しようとしても無駄なことだと思うよ?」
 後ろに座っていたあずさは、僕の言葉を聞いていたのか、僕の思考を感じ取ったのか、そんなことを言い出した。ってか、僕がそんなこと口にしていたのだろうか。言っていたならば、僕は悪いことを口にしたのかもしれない。
「そもそも、心頭滅却して暑さ忘れるって、仏僧だか誰だかの言葉じゃなかったかな? 僕達一般市民にはあまり関係のないことだと思うのだけれど」
「だったら、九月が夏だか秋だか考える暇があるんだったら、クラスの出し物調査に少しは協力しなさいな」
 そう。今は放課後前のホームルーム。
 九月下旬に迫った学園祭のクラス出し物を決定するミーティングのようなものを行っている真っ最中なのだ。
 なぜ、『のようなもの』と付帯したかというと、それがミーティングというにはあまりにもちゃっちくて、どうしようもなく面倒なことになっている。というか、簡単に言ってしまえば、クラスの出し物は、先程から明示されていた『メイド喫茶』に決まっていたのであった。
 どうして中学生でメイド喫茶なんてやらねばならないのだ、と思っていたが、クラス担任の徳重先生は特段何も気にしていない様子だった。それじゃ、先生の意味がないじゃないか、なんて思っていたけれど、しかしながら、そこで先生が突っ込みを入れれば、先生の意味はあってもクラスの自主性は問われないだろう。
「……やっぱり、男子ってメイドが良い訳?」
「良いかどうかと言われると、うーん、困っちゃうな」
 困っちゃうな、って何だよ。
 我ながら、返事に困る回答をするんじゃない。そう思いながら、僕は思いきり身体を後ろに捩らせる。
「だってさ、考えてもみてくれよ。やっぱり客寄せには、メイドが一番だと思わないか? 女子に負担を強いるのはどうかと思うけれどさ。男子は料理を作ることで帳尻を合わせれば良い話じゃないか。そうは思わないか?」
「そりゃ客寄せには便利だろうけれど……、やる身にもなってほしいものよ、メイドって。いっそ男子がメイドをやれば良いのに」
「それ、どこに需要があるんだ?」
「さあ? あるかもしれないし、ないかもしれないし。もしかしたら、意外と客が集まるかもよ?」
「嫌だね、やりたくない。……それに需要があったら、それはそれで嫌だ」
 

ラブレター ⑩

  • 2019/06/01 00:00

 エピローグ。
 というよりただの後日談。
「結局、ラブレターってどうなったんだ?」
 僕は単純な疑問を投げかけた。
 僕は(ある種)明白な疑問を投げかけた。
 僕は簡単な疑問を投げかけた。
 それは答えが分かっている、単純でシンプルな正解だったというのに。
 分かりきっていて、それを訊ねること自体が愚問だと言える話だったというのに。
 でも、僕は質問した。
 でも、僕は詰問した。
 ――ラブレターはどうなったのか、と。
 その質問について、彼女はこう言い放った。
「…………ラブレターって、何?」
 ああ、そういうことか。
 そもそもの問題として。
 そもそもの課題として。
 そもそもの疑問として。
 彼女がラブレターのことを知らなかった、ということなのだ。
 仮に大量のラブレターを手に入れたとしても、その意味を理解していなければまったく意味がないということだ。
 良く考えれば単純なことだったのだ。
 良く考えれば簡単なことだったのだ。
 それがそうであるならば、分かりきった話であるとするならば、僕は何も否定しない。僕は何も肯定しない。それが分かりきっている話であるんだ。だったら、僕は何も言わないだろう。というか、転校生に皆期待しすぎななのだ。転校生がどれだけパーフェクトな人間だと思っているのだろうか。転校生がどれ程完璧な存在だと思っているのだろうか。転校生のことを、買いかぶりすぎじゃないか、と言いたいぐらいだが、それはそれとして。言わずもがな、というところだろう。それが分かっているんだ。というか、分かっているのは同じ部活動に加入している僕達ぐらいしか知らないことも多いのだろう。
「……ラブレターのことを知らないなら、一から教えて貰え、あずさに」
「なんで私に?」
「いや、だって、そういうデリケートな話題は同じ性別の人間同士で言い合った方が良いだろう?」
「そういうものなのかねえ……」
「そういうものだろう?」
 それ以上は言うのは野暮ってものさ。
 僕はそんなことを考えながら、『屍者の帝国』を読み進めるのだった。

   ※

 もう一つ。後日談があるとするならば。
 あずさが買ってきておいたお土産があまりにも消化されていなかった、ということだろうか。仕方がないと言えばそれまでなのだけれど、気づけば量が減ってきている。いったい全体誰が食べているんだろう……などと思っていたら。
「……あ」
 ある日、あずさが自らの鞄にお土産を仕舞っているのを目撃してしまった。
 ……別にそれをしなくても良いだろうに。僕はそんなことを思いながら、静かに部屋の扉を閉じるのだった。

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